不安神経症、対人恐怖症などのお供に
内容(「BOOK」データベースより)
他人の視線に怯える対人恐怖症。強迫観念や不安発作、不眠など、心身の不快や適応困難に悩む人は多い。こころに潜む不安や葛藤を“異物”として排除するのではなく、「あるがまま」に受け入れ、「目的本位」の行動をとることによって、すこやかな自己実現をめざす森田療法は、神経症からの解放のみならず、日常人のメンタル・ヘルスの実践法として、有益なヒントを提供する。
他書で目にした森田療法という治療法。心理学の中でも臨床的な部分に興味を持つ自分としては触れておこうと思った。
何よりも、
この療法は、神経質や神経症に効果を発揮するという。生来からかはわからないが、気付いたときには神経質な性格になっていた自分としては是非とも学んでおこうと思う。
●はじめに『「森田療法」とは何か』
森田療法の概容がまとめられている。欧米などで主流だった不安や葛藤についての考え方との違い、「あるがまま」の理念、などを触れている。具体的な部分は第1章以降になる。
●第1章『森田療法の基礎理論』
まずは「人間は何のために生きているのか(生きるための欲望)」という哲学的な部分を生物学的な見地や哲学者たちやフロイトの意見などを交えながら、森田療法の創始者である森田正馬氏の考えを述べている。
その
『生の欲望』についてを乳幼児期からの発達とともに変化するという研究内容が主。また、創始者の森田氏の意見の解説のみならず、筆者なりの疑問点や意見についても窺える。
アドラー心理学とも通じており、
劣等感を向上心に変えるか神経症に変えるかといった岐路や、家庭内暴力・校内暴力・いじめといった部分の原因などにも言及しており、そういった神経症的な行動の例を挙げている。
その一方で、筆者の体験談を挙げて『生の欲望』についての解説を述べている。読者としても筆者のような経験をしている人がいるだろう。それらの体験が『生の欲望』という観点で、どのように捉えるべきかの模範となる。
●第2章『神経質(症)のメカニズム』
章題の通り、神経質や神経症のメカニズムについて言及する。
まずは、
性格の特徴として先天性や後天性の性格変化について一卵性双生児の例などを挙げて説明する。どういった人物、性格が神経症を患ってしまうのか、またヒステリー性格についても触れ、神経症としては同じ括りでも神経質者と違うことについて述べている。
また、
森田療法を知る上で不可欠な『ヒポコンドリー性基調』とその考え方や、神経症の発症をフロイト説と森田説とで比べながら紹介。
他にも、
神経症の根幹とも言える『精神交互作用』、『とらわれの心理』として強迫観念と妄想の違い、誰もがやりうる『はからいの行動』の健常者と神経症の人との違いなどを論述し、神経症のメカニズムを考察している。
●第3章『神経質(症)の諸症状』
ここでは、神経質(症)にはどういった症状が起こるのか、という点を
強迫神経症や不安神経症に分け、その中でさらに細分化しながら実例とともに紹介している。
大方、健康な人(本書では日常人と表現)でも持ち合わせているものが悪い方向に作用しているために、病にまで発展しているものと思われる。それを自分だけにあることと思って、異常な状態を排除しようとする方向にもっていこうとすればするほど悪化してしまう負の連鎖が起こってしまう。それを裏付ける症例が挙げられている。
●第4章『神経質(症)の治し方』
これまでの章での内容を踏まえ、ではどうすれば治っていくのかという点について論じている。
性格面・精神面が絡む病のため、解決策はやはり患者次第ではあるのだが、治すための考え方や方法についてはここで具体的に語られる。
また、
具体的な症例とその治癒(克服)を書いており、さらには神経症に悩み続けてきた患者の日記も引用されている。その甲斐あり、前章までで語られてきた
『あるがまま』の意義を実例とともに理解できる上、同様の症状に悩んでいるとしたら共感できる部分も多々あるだろう。治療者でも被治療者でも読めるような内容である。
一方、『あるがまま』を誤解したものとして、「外に出たくない」「人付き合いは嫌」といった逃避行動を『あるがまま』と感じている人物を挙げ、諫める部分もある。
●第5章『日常に生かす森田療法』
第4章に加え、神経症の人の話と治療について述べ、日常的にどう生きていくことが肝要かを教えてくれる。神経症を患っていた筆者の体験談も赤裸々に書かれており、「あるがまま」の理論を実践的に勉強できる。
●おわりに『生と死を見つめて』
著者の体験談を中心とした内容。妙に感傷的な印象を受けてしまい、言いたいことがぼやけているかなぁ、とも思った。さすがに筆者自身のことだけに筆に力が入ったのだろうか、と思ってしまったのだが、筆者の経歴を見ていなかったので、まさか筆者が癌によって逝去しているとは知らなかった。癌との闘病の間にも筆者の『あるがまま』の姿をこの章で記している。
『ゆるし』などの理論は説得力があり、神経質(症)の方なら共感できる部分は多いかもしれない。
全体として、森田療法の創始者である森田正馬氏の説を説明していくだけではなく、筆者自身の体験談や今まで接してきた患者から察した内容なども含んでおり、
森田療法の筆者なりの考えも書かれている。
上記の章ごとの感想にもある、
森田療法の肝でもある『とらわれの心理』『はからいの行動』『あるがまま』といったキーワードは、言葉だけ聞いて「なんとなくわかるから読まなくてもいいや」と思うべきではない深い内容である。
神経症を患っている自分にとってはこの本は救いになるような点はあることにはあるが、過度の自己観察が裏目に出るような症状なため、理論を知っただけでどの程度精神の自己鍛錬に繋がるかは不明だ。
本書にある『目的本位』の目的がどれほど自分の真の目的なのか見誤らない自信はあまりない。そもそもその目的(生の欲望など)は道徳的な感触があり、十人十色な我々が人としてどうするのが正解か、という点を押しつけている部分もある気がする。
そういった線引きに敏感になってしまうのは、逃避行動と生の欲望の葛藤が起こっている証拠なのかもしれない。と、いろいろ考えさせられる本でもあった。
また、筆者は行動療法と森田療法は似て非なるものと言っているが、少なくとも行動療法のような慣らすようなことから始めなくてはならない。ただ、行動療法とは違う点があるので、その点は本書に書かれているので是非読んで理解しておきたい。
本書を読んでの効果はさすがに即座に出るものではないので、その点の感想は難しい。
その一方で、
神経症である自分がどうするべきなのか、どう克服していくのか、という指針を示してくれる内容ではある。
こういったメンタルヘルスの実践術があるという参考にはなるので、興味のある方は手にとってほしい。
評価:★★★★☆