言いたいことは分かる
内容(「BOOK」データベースより)
今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。人の心の陥穽を圧倒的な筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。
んだけどねえ。。。
学生時代に一冊読んでみただけで、まったく触れていなかった宮部みゆき氏の作品。ミステリー好きとしては触れざるを得ない著者だろう、と思い、最近評判の文庫本としてピックアップされていたので購入にいたる。読む前から、タイトルから受けるワクワク感がよい。
主人公は、解雇したアルバイトの女性による執拗にして陰湿な嫌がらせを受ける。居心地の悪さを常に感じながら生活するとともに、巷で騒ぎになっている無関係とも思われる無差別毒殺事件が絡む話。
この二つがどのように繋がるのかが読者としては気になるところ。
宮部みゆき氏の作品については語れるほど読んでいないが、特長は緻密な舞台設定だろうか。
本作は、
登場人物の平穏な日常を描くことを疎かにせず、危機に瀕する点との緩急を鋭く描いている。展開重視のミステリーを読んでいただけに、久しぶりにこういうじっくり煮込んだ作品に出会った気がする。ただ、
逆に言えば、物語に魅力を感じ、入り込むまでに少し時間がかかる。しかしまぁ、なかなかの文章量を誇る長編だけにこんなものだろう。
密かに伏線が張られていたり、身近な人物が真犯人だったりするのかなぁ、と思案しながら読んでいるうちに、どんどん物語に引き込まれる。
本作の魅力の一つは、やはり前述した解雇したアルバイトの女性による陰湿な嫌がらせの恐怖である。トラブルメーカーと一言で片付けられるほどの人物ではない異常な様相を醸す彼女は何を考えているのか、次にどんなことが待っているのか、平穏な日常を脅かす不安は読者にも伝わり、
貴志裕介氏の『黒い家』に似た感触である。
読み終えての感想だが、
丁寧な登場人物の日常の描写は無駄が多いという他ない。この人間の深みを描いていることが魅力なのかもしれないが、これを楽しむような余裕が私にはなく、純粋に進みの重たさを感じただけだった。
脱線とまではいかずとも、脱線気味と感じるラインが多く、無駄に長編というイメージがつきまとった。
一貫して、『名もなき毒』というテーマに沿わせて、人間の醜さ、苦しめる毒を描いていることには成功しているが、「だから何?」という感想に落ち着いた。
たしかに、悪い作品ではない。だが、個人的にはつまらない。この『名もなき毒』を描くにしても、純文学風味にするか、サイコホラーにするか、尖らせて欲しかったかなぁ、と。
というか、これ、ミステリーに含めていいのだろうか。そんな、微妙な作品。
評価:★☆☆☆☆
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