恐ろしきゼロサムゲーム
出版社/著者からの内容紹介
戦慄の新感覚ゲームノベルが、新装丁・コレクターズアイテム版で再登場!!
藤木はこの世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を覆う、深紅色の奇岩の連なり。ここはどこだ?傍ら携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された」
これまた十年ほど前に読了した貴志祐介氏の名作を再び読んでみることにした。私が貴志祐介ファンになった要因の一冊でもあった記憶だけは残っている。
わけもわからぬまま火星のような地形に放り込まれた主人公。
同じ境遇の数人の人間で繰り広げられるゼロサムゲームの様相。
といったありがちな設定。
食糧?サバイバル用具?護身用具?情報?あなたはこの状況で何を求めるか。そこで得たもののやりとりの中で、次第にお互いの溝が深まる。
個人的にこういうクローズドサークルは連続殺人ものよりも好きである。
とは言え、ルールなどの設定が面白さに直結するため、その点が読者にとっても合う合わないがでそう。
その上、この著者お得意の取材力。
今回は民俗学や動物や昆虫、ボーイスカウトの知識といった部分が濃い。ストーリーのバックグラウンドには欠かせない点である一方、クドいとも取れるのがやはり貴志祐介節か。
本作では
個人的にそういった点での展開の中だるみが感じられた。
結末。途中から察しのいい人はわかるかもしれないオチ。真相の部分はホラーなので置いておいて、恐怖面での面白さはと言われると、なかなか絶品。
ただ、その恐怖に単調さが出ているかな、と辛口な評価をしてみる。特に後半に差し掛かるにつれて、同じ質の恐怖が淡々と続くため、「わかったから、それで結果はどうなるの?」という冷めた目で読み進めていく要素となった。
サバイバルや生物学などに関しての取材のすばらしさはある。
だが、サバイバル要素は生き抜くための臨場感、必死な姿こそ描いているが、
この作品の面白さや恐怖にはあまり直結しないこともある。舞台としてはそういう設定でなければならないものだが、そこを
掘り下げすぎて個人的にはクドく感じられた。
確かに恐ろしく、確かに面白いのだが、どうしても
『天使の囀り』や
『黒い家』と比べて見劣りしてしまうなぁ、といったところだ。
評価:★★★★☆
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