あぁ、これは大賞取るわけだわ
内容(「BOOK」データベースより)
若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに…。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。
「他の応募作品と比べずとも、絶対的評価で大賞が取れそう」と思わされるくらいの恐ろしい作品。
貴志祐介氏の名著を久しぶりに再読してみた。
生命保険に関する記述が多く、業界話が多めな印象。蛇足な感じは無くもないが、そこがやはり貴志祐介らしさというか説得力の倍増効果がある。
著者自身が生命保険会社出ということもあってか、生き生きとした筆致だ。
最近発売された『
悪の教典』に比べ、非常にホラーな仕上がりであり、ディテールも丁寧に思われる。
心理学に関する言及が多い。著者は心理学に精通しているのだろう。その辺りの書籍で拾った付焼刃の俗解知識ではなく、専門性を感じさせ、さらには学者の諸説や社会現象、またそれらを鑑みた今後の課題についてまで考察させるところまで題材として引っ張ってきている社会派の一面も帯びていた。
面白い作品は結末を知っていても面白い、というのは本当だ。
今思えば、貴志祐介氏の名著である本作品には彼の強みが非常に現れている。先に述べた心理学の件もそうだが、昆虫学の知識とそれらをストーリーに絡める点もそうだ。専門性の深さが説得力や表現力に力を加え、またそれらの表現が門外漢にもありありと伝わるというすばらしさ。そして、これがホラーというジャンルにおいてどれほど強みとなるだろう。
ホラーの醍醐味でもある、じりじり迫る恐怖心、解放されるカタルシス。本作は、これらを心理学と昆虫学、生命保険会社勤務の経験によって組み立てた著者の努力の結晶と思われる。
渾身の出来とはこのことじゃないだろうか。
第4回日本ホラー小説大賞大賞受賞作というのは伊達じゃない。これほど力の入れられた内容はそうそう存在しない気がする。ホラー作品は非学の身だが、私の中では極上のホラー作品という位置づけでいいと思わせるほどの快作だ。
文句なしの満点である。
評価:★★★★★
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