現実を見ろ
内容紹介
働いても働いても、なぜかふえない、貯まらない…。◎貯金さえ十分あれば“将来安心”は幻想である。◎朝活、勉強会、資格取得では稼げない。◎やはり、お金は銀行に預けたほうがよかった。あなたがやってしまっている“残念”な投資、消費、浪費とは? 脱・貧乏思考でお金も人生も豊かになる方法。
財テク絡みで人生設計をいろいろ思案している私だが、株やFXなどの投資方向はコスト(時間やストレスなど)とリターンが割に合っていない気がしてきたのもあり、また違った意見も聞いてみようと思うこともあり、本書を購入。
ビジネスコンサルタントである著者は、どういった価値観でお金を捉えているのか読んでみようと思う。
章題は以下の通り。
●第1章『お金を稼ぐために決定的に重要なこと』
まずは、自分がどうしたいか、と言ったところを根本的に突き詰める。目標を立てることの重要性とその立て方、考え方を示す。全般的に言わんとすることは分かるのだが、「サービス残業しない奴は甘ちゃん」とも取れるような記述には嫌悪感が募るばかりで、首を傾げざるを得ない。仕事で苦労し成功することが前提という価値観なのだろうが、劣悪な企業が多い中、無神経な発言に思えて仕方ない。
●第2章『お金のためにすべてを変えろ』
結局のところ、何をするのが稼ぐためのコツなのかを説く。本章初めの方の記述は、「どこの優良企業に勤めた有望な正社員をターゲットにしているのだ」と突っ込みたくなるところだが、著者の本当に言いたいところは別のところにある。うまい話こそ無いとは思うが、実に実直で生産的。実現するかはともかく、一歩抜け出すには現実的な考えである。
●第3章『お金を稼ぐ人の時間と頭の使い方』
バカバカしい。現実はこうだ、と厳しく突きつけることは大いに結構だが、それを脱却するにはどうするべきかと記している点は「今までの自分を完全否定し、一から出直せ」と言わんばかりだ。抽象的なことを書いているわけではなく、きちんと具体策も書いているが、適当な印象を受ける。たとえば、「図書館で過去の自分の仕事に関する本を100冊読め」というのは、「なぜ100冊なのか」「どんな仕事か人に因るので分からないがそんなに蔵書がある図書館があるか」「そもそもそんな時間を費やす時間があるのか」と言いたくなる。
たしかに、稼げない人が妙なプライドを持つことはよくないかもしれないが、この著者は説教でもして悦に浸りたいのだろうかと思う。正直吐き気がした。
その一方で、子供手当てなどを例にした、稼げる人と稼げない人の考え方の違いは同意できる気もしたが、それは稼ぐ稼がないに関係なく、ちゃんと理解しているかしていないかの違いにしか思えない。少し的外れではないだろうか。
●第4章『貯金、そして投資、消費、浪費』
これまでの章に対しては批判的な目で見てきたが、本章は的を射ていると思った。貯金や投資に対する考え、また浪費と消費の違いといった価値観は参考に足ると思われる。
●第5章『こうすると投資は失敗する』
本章で著者がぶちまけた投資の失敗経験を聞いて、親近感が湧く人も多いはず。そういった失敗経験から著者が考える投資がダメな理由を述べている。著者も述べているが、成功している人にとってはただの負け惜しみに見えるような内容かもしれない。しかし、9割が負けると言われている投資の世界で、成功することはいかに無理な話かということを論点としている。
他方で、投資をしたい人が満たすべき条件を著者なりに提唱している。この条件に当てはまるならば、投資に手を出してもよいという考えだ。
大方、感心できる内容ではあるが、外貨預金やレバレッジの利かさない投資についての言及はなく、リスク面ばかりを強調しているとも取れる。
至極現実的なビジネス書であり、お金を稼ぐ点においてとても現実的なことを書いているのはよいが、恵まれている人の考えに過ぎない印象を受ける。
全般的に「志の低い者が集まった会社はすぐにつぶれるだろう」とか「仕事で活躍して、顧客を満足させること!」といった何とも優良企業の将来有望な社員にしか共感を得られないような記述が多く、ターゲット外の読者としては夢も希望もない内容ではないだろうか。
『私は投資で儲けた!』『金持ちの考え方』といった成功本とは違って、現実的なことは認める。しかし、
これはこれで逆にいい会社に入り努力したり、いいビジネスを立ち上げて成功したり、といった具合であり、違った意味で鬱陶しい。
就職難の中、渋々内定してしまったブラック企業に勤め、安月給で、数少ない休日に自分の時間を当てて少しでもリフレッシュしている人も多分にいるはずである。たしかに、本書から察するにそれはお金を稼ぐ環境にはないが、それが悪であるかのように『残念な人』と付けている点にとても嫌悪感を覚える。
……と言っても、著者の言う『残念な人』はまえがきにもあるが、「もったいない人」という意味で用いている。本書を読んで実践してみるチャンスと見るかは怪しい。
たびたび書いているが、本書はなかなか厳しい論調で現実を突きつける。この厳しい論調が著者の性格なのかもしれないが、現実的でこそあれ、「お前には無理、少なくとも無理と思ってる時点で無理」という感じが透けて見えていて、「恵まれている人の言うことは違うなあ」という思いでいっぱいだ。
それに、結局は「いい会社に入っていいポジションにつけ」という当たり前の発想を押し広げた内容。参考にする以前に、「ですよね~」と苦笑いしてしまう。
悪意を持って歪曲して表現させてもらうと、本書は『ただの説教』である。これを読んでモチベーションが上がる人は、著者が過ごした界隈では成功するのかもしれない。
一方で、第4章からは打って変わって、私としては支持したい内容が多かった。貯金や投資に対する考え方、消費の仕方、といった部分は頭に入れておいて損はないと思う。
とまぁ、個人的に肯定的な部分と否定的な部分が混在する本書。ただ言えることは至極現実的な考え方でお金に対する価値観を構築している著者を否定する気はない。一発夢を見たい人は金持ちの成功本を手に取ればよいし、お金について現実的な考えを求める人にはこの本が最適なのかもしれない。反発したい部分は多かったが、私には良い刺激にもなったと思う。
評価:★★★☆☆
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