野球とミステリーの期待を裏切らないミックス
内容(「BOOK」データベースより)
人気球団オリオールズの投手・沢村。ある日、沢村の「暴力団との癒着」と「八百長試合」を指摘した告発文書が球団とマスコミに送りつけられ、身に覚えがな いにもかかわらず、沢村は自宅謹慎処分を受けてしまう。自身の潔白を証明するため、告発文書の調査を開始する沢村。やがて彼がたどり着いたのは周到に計画 された恐ろしい陰謀だった!第3回『このミス』大賞を受賞した正統派ハードボイルド。
個人的にかなり好みなハードボイルド系。野球+ミステリーというのは結構聞き慣れないが、野球の基本ルールさえ知っておけば、余裕で楽しめる内容だろう。
ハードボイルド系というのがどういうジャンルか、説明しろと言われるとわからないんだけれども、男が覚えのない罪を着せられ、謎の輩に襲われ、まぁオーソドックスにお色気たっぷりの女性が登場したりしながら、自分で事件の真相を暴いて行くといった内容。
セリフの言い回しに、露骨に芝居や映画で使われそうなくさみがある。その点は、嫌悪感を抱く人もいるかもしれないが、自分は好きである。
一人称視点で主人公一人のカメラでずっと進むので、ストーリーは追いやすく、かといってマンネリ、中だるみも感じさせないスピード感がある。「ここは急ぎすぎだろう」という点もない。この構成力はさすが。
キャラクターの個性もよい。覚えやすいのはもちろんだが、主人公のキャラクター作りもすばらしい。これは書評家の解説にも書かれていることだが、彼の行動を追う文章から、野球チーム内で四面楚歌になるような性格にも非常に説得力がある。突飛な設定、設定を作るためのキャラクターという感じが全くない。そして、悪役もすばらしい。憎たらしくそしてどこか憎めない。
ところどころにばらまかれる伏線が読者の気分を常に釣り上げる。私の場合は、結末こそ気にならなかったが、これから彼が純粋にどう対処するのかという点が気になり読み続けてしまった。キャラクターの魅力があるからこそだろう。
評価:★★★★☆