トラウマとその対処
内容(「BOOK」データベースより)
過度なストレスによる「PTSD」「うつ病」に要注意。心の長期的ケアのケースについて紹介。
トラウマ、PTSDについて詳しくなりたかったこともあり、購入。
章題は下記の通り。
●序章『震災の心のケアで必要なこと』
阪神大震災、東日本大震災を経験した人々の精神状態を見てきた著者が考える、被災者の心の声。彼らに対し、何が必要か、あるいは彼らの心にどういったことが起こる傾向があるか、などが書かれている。
●第1章『トラウマとは?』
初めに著者が指摘するように、日常語として浸透することよって、本来の学術的意味とズレが生じてしまうこともあり、きちんとトラウマについて知ってもらうのがこの章。『ヒステリー』という言葉が日常語とは全く違う意味だったことは知らなかった。
序章でも述べられていたが、トラウマ的出来事(例えば震災による所有物の喪失や家族の死亡)があったからといって、皆が皆トラウマを抱えるわけではないという点は一つのキーポイント。
トラウマが学術的に確立するまでの歴史を振り返っているとともに、解離などの症例も紹介。最終的にトラウマを抱える原理で閉める。
●第2章『トラウマ治療の原則』
治療薬や認知療法、行動療法といった、トラウマ治療の基礎的な部分に触れている。
●第3章『トラウマと疎外感』
トラウマを持つ人物がどのような精神に陥りがちなのかが非常によくわかる章。疎外感という言葉に集約され、人間不信というように、ボランティアの人にも心を開けないといった状態がどういう気持ちなのかも書かれている。被災している人といない人、被災の程度の差といった不公平感も論旨となっている。
また、コフートの自己愛ニーズを満たす3つのあり方について、素人ながら臨床場面での接し方に非常に有用な印象を受けた。
●第4章『トラウマとうつ病』
本章を読めば分かるように、トラウマとうつ病は併発しやすく自殺にまで追い込むことも少なくない。そういった事実を述べている章。
●第5章『震災トラウマをどう克服するか』
震災に限らず、トラウマやうつ病などの状態をどう克服したらよいかについて考察している。様々なケースがあるが、基本的には医師やカウンセラーを訪れ、信用するのが最もよい方法。しかし、「こいつはわかってくれてない」「そこまで症状が酷くない」と思ってしまうのも仕方がない。そういった場合の話もきちんと記している。
●第6章『トラウマ治療の重要性について』
トラウマやPTSDの現状と今後について考え、うつ病や統合失調症については詳しいものの、トラウマに対しての医療分野での専門家が乏しいことを指摘。由々しき事態だと認識した上で、今後、トラウマの治療に対してどうするべきか、といったことを述べる。
全体的に読みやすく、専門的な部分は柔らかく、現場と著者の経験を重視したわかりやすい仕上がりとなっている。
本書のタイトル通り、震災の被災者に対する考え方、特にトラウマやPTSDに対する考え方を中心に述べている。
日本では、心の問題は、以前に比べ重要視されるようになってきたが、それでも外国に比べて後進国であるという事実、またメディアによる過度な不安を煽ることによる暗示、こういった問題が起こっていることがわかった一冊。
震災に限らず、トラウマ治療という点で読みやすく分かりやすい良書である。個人的には解離などもう少し踏み込んでほしいところがあったかな、と。
評価:★★★★☆
和田 秀樹
ベストセラーズ
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