最高、最高、裁判所。
内容(「BOOK」データベースより)
犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。
江戸川乱歩賞受賞作。
映画化もされている作品だが、巻末の解説からも察せられるように、映画の方の出来はあまりよろしくなかったらしく、原作を読んでおくべきらしい。
文章は、表現力よりも理論で押す感じの作家かな、という印象です。
タイトルのインパクトもそうだが、序章を読んだだけで、ぐっと引き込まれる設定にワクワクしながら読みすすめることができた。
やはりというべきか、
こういう殺人事件や訴訟が絡む遺族や加害者関係者の話になると、マスコミの無神経な報道による苦悩が焦点にもなる。本書のように、加害者が冤罪や必要以上の量刑を受けることになった場合は尚更で、報道が招く世間からの目によってそこまでかという悲劇的な現実が待ち受けるものだ。
そういった
社会派小説によくある部分もそうだが、肝心なのは事件とその調査の話。
刑務官が仮釈放中の前科を持った青年をつれて、とある事件の冤罪を晴らす調査に向かう。その冤罪を被った容疑者は事件前後の記憶が「死の恐怖を感じながら階段を上っていた」という部分しか残っていないという後遺症があるため、真相の究明が難しい状況となる。
誰もが頭を抱える事件の内容もそうだが、なぜ刑務所から出所したばかりの青年に協力を頼むのか、といった点を始め、
読者が疑問を抱くポイントがところどころ出てくるところがまた面白い。どういう話に持っていくのか結末を少し妄想しながら読みすすめていける、よいミステリーだ。
序盤からの引きつけと展開はよかったが、四章『過去』の部分で個人的には失速。基本的に刑務官の仕事や死刑制度のお勉強パートという感じ。
無論、そこに登場人物の感情や決意などが書かれているのだが、過去の回想は長ったらしくなると面倒というのが私的な感情だ。とはいえ、四章自体こそ長いが、回想はそれほどでもなかったので、だれるほどではなかった。
そして、
真相は遙かに複雑であり、伏線もばっちりの完成形と言いたい。
すごいの一言です。読後感の何とも言えない気分は、作品の掲げている問題を考えさせられるからかもしれない。
また、
巻末記載の参考文献の多さには驚く。これほどまでに下調べをしないと書けない力作だろう。
とにもかくにも、法律等の問題、動機、犯行方法、さまざまな点で完璧に塗り固められたプロットを見せてくれる素晴らしい作品だった。
某第55回江戸川乱歩賞受賞作にがっかりした江戸川乱歩賞作品だが、本書は
こういうのを求めてたって感じで痛快です。
評価:★★★★★
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