ロマンを求める学問
内容紹介
宇宙の果てや時間の流れに思いを馳せると、日常の些事を忘れさせてくれる。知的レクリエーションを愉しむために、本書は大まじめに科学的な観点から「タイムマシン」について考えてみた。相対性理論をはじめ、ワームホール、宇宙ひも、ブレーン宇宙モデルといったキーワードを駆使して過去や未来について思索する。
では、なぜ2008年にタイムマシンなのか。子どもに大人気のあの「ドラえもん」の中の設定では、実は2008年がタイムマシンが発明された記念すべき年とされているからだ。それだけではない。ロシアの数学者たちが2008年のうちにタイムマシンが完成すると発表しているのだ。
真偽のほどは本文に譲るとして、われわれが新幹線に乗って東京から博多まで旅行したとすれば、そこはもう未来の世界だという。タイムマシンは、物理や科学に関心をもつための入口として、子どもから大人までがアレコレ考える材料を提供してくれる。
タイムマシンは誰もが夢見る発明品の一つと言えるくらいのロマン溢れるアイテム。
それについて大の大人、研究者達が真剣に考えていることを教えてくれるのがこの本だ。
豊富な図説、対話形式といった読者に易しい感触の構成。また、
対話形式とは言っても、要点を捉えたQ&A方式と言うべきか。非常にわかりやすく、読者の頭の整理を促す形で進行してくれる。
章題は以下の通り。
第1章『意外にカンタン!未来へのタイムトラベル』
未来へのタイムトラベルは実は誰にでもできるのだ、という主張から始まる。ここで説明される時間や時空(時間と空間)については、自分には知らないどころか想像もしなかった部分が多く、とても興味深かった。
なかでもカーナビの精緻な時間を計算するシステムについては目から鱗。
一方、未来から過去へループするという話は、さっぱり論拠が掴めなかった。さぞ講述しがたい相対性理論を用いた難しい理論なのだろう。
第2章『過去へのタイムトラベルとタイムパラドックス』
過去へのタイムトラベルができるかどうか、またタイムパラドックスという問題点をどう処理するか、という点を大まじめに研究した現在までの結果をまとめてくれている。タイムマシンの作り方の様々な説、親殺しのパラドックス、時間順序保護仮説、多世界解釈など充実した内容で、本書の一番の見所。
第3章『時間の流れる方向と時間の始まりについての謎』
ここでは、
時間によって区別できない物理法則の特徴、可逆現象・非可逆現象といったところから始まり、時間の区別ができる分野、熱力学、エントロピー・マクスウェルの悪魔などから
時間の流れる方向についてを考察し、ビッグバン宇宙論などから
始まりと終わりについてを考察する。ブレーンだの、バルクだの、十一次元だの、といった部分はもはや理解できず置いてけぼりだった。
第4章『人間にとっての時間の意味』
章題の通り、我々人間にとっての時間とはどういったものなのかを、生物学や哲学の意見を通してまとめている。タイムマシンとは話が脱線している感じもするが、なかなか面白い。
本書のタイトルを見て「読みたい」と思った人は、おそらく第1章と第2章あたりがオススメで、それ以降は時間そのものについての考えに帰着するものであって、少しタイムマシンからずれている。
なかなか読み応えがあり、タイムマシンについてもそれなりに満足できる内容だった。この値段でこのボリュームと分かりやすさは充分である。最後の締め方はちょっと無理矢理かなぁ、と思うけれども。
評価:★★★★☆