誰もが持っている心の闇
内容(「BOOK」データベースより)
誰もが心にとらわれや不可解な衝動を抱えている。そして正常と異常の差は紙一重でしかない―。精神科医で横溝賞作家でもある著者が、正常と異常の境目に焦点をあて、現代人の心の闇を解き明かす。完璧主義、依存、頑固、コンプレックスが強いといった身近な性向にも、異常心理に陥る落とし穴が。精神的破綻やトラブルから身を守り、ストレス社会をうまく乗り切るにはどうすればいいのか。現代人必読の異常心理入門。
何とも論旨を掴みづらいタイトルではあるが、『はじめに』にもある通り、
異常心理とは精神障害ではない。誰もが持っている二面性の影の部分、いいことをしたい気持ちの裏にも悪いこともしてみたいといった気持ち、といったものだ。本書では、その異常心理と正常心理との境目についてを特に論じているようだ。
BOOKデータベースの文章を読んで、気になった方は手に取ってみてよいと思う。ストレスの多い社会で生活する現代人にとって有益な精神科医である著者の意見がここにある。
●第1章『本当は怖い完璧主義』
完璧主義は精神的ストレスを感じることが多い。世の中、そんなに完璧にできることばかりではないのに、完璧にこなそうとするからである。そんな、この手の知識をかじった人なら(でなくとも常識的に?)知っているであろう完璧主義について述べている。完璧主義の危険性、隠された病理、行動や思想などを語る。
●第2章『あなたに潜む悪の快感』
簡単にまとめれば、いたずら心の話。誰もが持っていて、時に快楽殺人のような犯罪にまで発展してしまうような悪の快感について述べている。虐待やイジメ、DVなどもこれに含んで考えられ、過食症と万引きの共通点などを筆頭にこういった行動の裏を考察している。
●第3章『「敵」を作り出す心のメカニズム』
ドストエフスキーと夏目漱石などの例から始まり、被害妄想などによる「敵」を作り出す心のメカニズムを説く。性欲や支配欲、SMなどについても論題になっている。
●第4章『正反対の気持ちがあなたを翻弄する』
好きな子に意地悪をする、本音とは正反対のことを口にする、などありがちな正反対の気持ちを含む行動の裏に潜む心理について述べている。強情や意地っ張り、天邪鬼といった行動や性格についても触れており、なるほどと唸らせる内容となっている。両価性というものがキーワードだ。
●第5章『あなたの中のもう一人のあなた』
解離、記憶喪失、多重人格、心的外傷といったものについて考察している。それにしても、かの有名なユングにそんな過去があったとは知らなかった。
●第6章『人形しか愛せない』
なかなか難しいタイトルだが、アイデンティティや自己愛といった部分に触れている。そこから発展し、子どもや恋人が思い通りにならないと苛立ったり欲求不満に陥ったりするような心理について述べる。ゆがんだ愛情、愛着、嫉妬などが引き起こすものが多い。
●第7章『罪悪感と自己否定の奈落』
ありもしない罪に罪悪感を感じたり、自己否定に陥ったりして強迫観念などの精神疾患にかかることについて、ニーチェなどの実在した例を用いて考察する。うつや境界性パーソナリティ障害、自殺についての心理状態や背景がよくわかる章。
問題児、犯罪行為、犯罪に近い行為、イジメ、支配と被支配、不安、歪な愛情、といった様々な実在する例を用いて、人間の誰もが持っているような目を背けたくなる心理、陥りがちな心理を考察しつくした内容。
ストレス社会を生きる我々にとって本書は一つの警句であり、精神状態に関する教科書と言える。いたって健康な人の人生でも、お目にかかりうるケースが多く述べられている。読みやすく、わかりやすい。興味をもたれた方は読んでおくとよいだろう。
ただ、これはこういった心理の裏付けであり、こういう要因がある。といったように事例を述べていくので、その点では広く浅めと言える。
評価:★★★★★
岡田 尊司
幻冬舎
売り上げランキング: 11218
PR