これは危ない!
内容紹介
とびきり有能な教師がサイコパスだったとしたら、その凶行は誰が止められるのか──ピカレスクの輝きを秘めた戦慄のサイコ・ホラー。
『新世界より』にも匹敵する長編。私としても待望の新作、早速読んでみました。
とりあえず思ったことは、「この本を中高生に読ませると、影響を受ける可能性があるのでは?」と。
このカリスマ性は、まずいと思うんだ、うん。まさに『悪の教典』だ。
さて、上下巻合わせて800ページを超える超ボリューム。
表紙や物語の初めに登場するカラス、これが物語にどう影響していくのかという思いから始まる。
初めは、「あれ? なんの変哲もない学校ものじゃないか」とサイコ・ホラーと打っているだけに、今後の展開がどうなっていくのかそわそわしていたが、
徐々に徐々にじわじわとホラーの様相を呈すようになる。
サイコパスとは反社会性人格障害(APD)のこと。有能で生徒からも大人気の教師が実はそんな人間だったという内容だ。
教師の面が徐々に剥がれ、本性が見え隠れし、最期にはとんでもない結末が待っている。
ホラーの解説となると、構成もそうだが、やはり表現力に尽きる、と言いたかったが、今回は『
天使の囀り』にあるようなおどろおどろしい和風な恐怖はあまり感じられず、
エンタテイメントに特化した作りだったのではないだろうか。
読み手にもよるだろうが、
私には恐怖というよりは面白さが立った。
これほどの長編を読むことは滅多になかったのだが、常につまらないと感じさせないものはあった。
様々な場面で説得力を発揮する、取材による専門性はもちろんのこと、貴志祐介作品おなじみ(?)の情欲を煽るシーン、冗長にならない程度の回想、など展開も極力単調にならないよう工夫されているのだろう。
特に下巻からのラストスパートは素晴らしかった。
さて、私としては極上のエンタテイメントと捉えた本作だが、どういった点がホラーで、どんな経緯でどのような凶行に及んでいるかは読んでからのお楽しみということで。
しかしまぁ、
「なんだかなぁ」というのが総評。ホラーとしてもちょっとやり過ぎで、現実味が沸かないというか。面白かったのは面白かったし、読んでいて苦痛なところはなかった。きっと中高生が読むとどっぷり浸かるとは思う。
ただただ、カラスって伏線じゃあ……。
評価:★★★★☆
「悪の教典 下」
[単行本]
著者:貴志 祐介
出版:文藝春秋
発売日:2010-07-29
価格:¥ 1,800