鮮やかな法廷の逆転劇!
内容(「BOOK」データベースより)
元検察官の佐方貞人は、刑事事件を専門に扱うやり手弁護士だ。そんな佐方の許に、かつて在籍した地検の所在地で起きた殺人事件の弁護依頼が舞い込む。高層ホテルの一室で起きた刺殺事件。物的証拠、状況証拠ともに、依頼人が犯人であることを示していた。男女間の愛憎のもつれが引き起こした悲劇。世間やマスコミの誰もが、依頼人に勝ち目はないと見ていた。しかし佐方の、本筋を見抜くプロの勘は、これは単純な事件ではないと告げていた。敗戦必至の弁護を引き受けた佐方に、果たして勝算はあるのか。やがて裁判は、誰もが予想しなかった驚くべき展開をみせる…。
恐ろしい。
前作、『
臨床真理』にあった悪い意味での新人らしさが一気に消え、名作を生み出してしまった。
元検察官の弁護士、佐方の魅力を上手く書き上げ、事件の当事者たちの緻密なドラマ。
前作でも私が感じた読みやすさ、場面ごとのわかりやすさなどのいい点はしっかり残っており、作者の筆力は折紙付。
法廷で取り上げる事件のあらましを、当事者の事件当時の視点で描く一方で、法廷を平行して進める構成。
非の打ち所はなく、こうした方がありがたいなぁ、ということも全くなかった。
個人的には、検察官と弁護士の息を呑むやりとりが特に読みふけってしまうところだった。
一方、最後の証人が真相を明かす場面は、ドラマチックに他者が排斥されたような空間を作っている。
具体的には、わざと検察官や傍聴人、裁判長の存在感が薄くされていた感じがある。見習うべき点か。
著者特有の個性的な特長と言える部分は、自分にはまだ見受けられないが、この作品は名作である。
評価:★★★★☆