音楽が聞こえてくる小説!
内容(「BOOK」データベースより)
ピアニストを目指す遥、16歳。両親や祖父、帰国子女の従姉妹などに囲まれた幸福な彼女の人生は、ある日突然終わりを迎える。祖父と従姉妹とともに火事に巻き込まれ、ただ一人生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負ってしまったのだ。それでも彼女は逆境に負けずピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。『このミステリーがすごい!』大賞第8回 (2010年)大賞受賞作。
表紙のデザインセンスも冴える本作。
序盤から中盤にかけて読んでみて、直感でこれは良作だ、と思わされた。
最初に起こる事件の描写は、舌を巻くものがあった。臨場感を与える表現力を見せつけられる。
それだけではない。本作の魅力でもある音楽を題材としたところについて。
ピアノの演奏法や曲の説明や表現なども、門外漢にもしっかりと伝わり、クラシック音楽(ピアノ独奏)の楽しみ方やピアノの奥深さやピアニストの技法や苦労を教えてくれる。
音楽論や価値観の掘り下げは、脱線に取れるかも知れないが、苦痛とまではいかないはず(少なくとも、この本を手に取る人間には)
まさに、読書ながら音楽を聴いているような、ピアノの音が奏でてくる内容。想像で聴覚まで潤う小説はなかなか貴重。
ミステリー要素に加えて、これらの表現力。大賞にふさわしい。
これは久しぶりに諸手を挙げて満点、と思ったが、私的には中盤から後半が重たい。
演奏に対する分析と興奮を表現しているのは分かるが、さすがに門外漢の自分は置いてけぼりな感じがした。
知識のない人間にも文章力、表現力で意味は伝わるのだが、煙たさ、くどさが勝って、盛り上がれば盛り上がるほど、こっちはげんなりする。一言一句逃さず読もうとせずに、軽く読めば気にならないかも知れないけれど。
そういう点、クラシックコンサートを聴きに行ったときに似て、自分のクラシックに対する楽のなさが現れたのかも知れないが。
音楽話とミステリーの比をもう少しだけミステリーに傾けてくれると嬉しかった。
もしかしたら、このミステリーがすごい!の賞に応募するのでなかったら、もっとヒューマンドラマな仕上がりになっていたんじゃないだろうか。著者の筆の勢いがミステリーよりも音楽や人生についての語りに力が入っているように思える。
結末についても、なかなか素晴らしい。ちょっと無茶じゃない?とも思うけど、ミステリーってこういうものかな。
加えて、締めの王道的臭さが好きでたまらない。
音楽面でここまで力を発揮させてくる新人作家。今後を期待せざるを得ない。
評価:★★★★☆