こりゃあ悪いけれども……
内容(「BOOK」データベースより)
県警上層部に渦巻く男の嫉妬が、連続放火事件に隠された真相を歪める(『樹を見る』)。出所したばかりの累犯者が起した窃盗事件の、裏に隠された真実を抉る(『罪を押す』)。同級生を襲った現役警官による卑劣な恐喝事件に、真っ向から対峙する(『恩を返す』)。東京地検特捜部を舞台に“検察の正義”と“己の信義”の狭間でもがく(『拳を握る』)。横領弁護士の汚名をきてまで、恩義を守り抜いて死んだ男の真情を描く(『本懐を知る』)。骨太の人間ドラマと巧緻なミステリー的興趣が、見事に融合した極上の連作集。
さて、
『最後の証人』 でさらなる筆力を見た柚月裕子氏の作品。どうやらシリーズ化のようで、本書は連作短編集となっている。
感想は……以下の通りです。
●第一話『樹を見る』
ううむ、前作からの登場人物の検事である佐方を活躍させる形にしたいのはわかるが、スタンダードで何の変哲もない事件解決って感じがする。というのも、いくら私情が絡むとは言え、警察側は頭が悪いだろう、という感じがしてならない。一方で、その私情の描き方はとても上手いと思う。
●第二話『罪を押す』
佐方の有能な捜査力を顕示する内容と言うより他ない。いたって普通。検事という立場で有能なことを表現するもっともスタンダードなシナリオという印象で、オリジナリティも警察ではなく検事という点だけかなぁ、という感じ。これまたただ警察の頭が悪すぎだろう、という話にしか思えなかった。
●第三話『恩を返す』
第二話までよりは面白かった。検事佐方の過去が見える一方で、旧友のピンチを検事として助け、借りを返すというスタンダードな内容なのだが、キャラが立っていたのが面白く感じた理由だろうか。話に入り込めた。
●第四話『拳を握る』
加東の誤植は触れないとして、なかなか凝った作りではあるが、全体的に地味で進みも重たい印象。上意下達の構造で、無関係の者を事情聴取して犯罪者に仕立て上げるという悪行がメインになっていて、特に感動もなく……。
●第五話『本懐を知る』
今回はここまで読んできて謎の部分だった佐方の父親の話。本懐を知ることこそできたが、美談でこそあれ、フィクションながら「そこまで出来た人間がいるかよ」という思いがしてしまう。
全体を通して、
「いいなぁ」と思った話が、第三話『恩を返す』しかなかった点、評価はお察し。
話が王道チックというか意外性がないのはよいとしても、それを面白く感じさせる表現力、人物の個性や構成が全体的にものたりず、無味乾燥な話が続いたなぁという感想。
評価:★☆☆☆☆
「検事の本懐」
[単行本]
著者:柚月 裕子
出版:宝島社
発売日:2011-11-10
価格:¥ 1,500
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