私たちはどうしたいのか
内容(「BOOK」データベースより)
「…ただ、生命の尽きる場所」。ある冬の日に阿東優が入院した「7F」は、そういう場所だった。そのことを彼に告げたのは、長い黒髪を持つ同じ入院患者の美少女。名前はセツミ、血液型O…手首の白い腕輪に書かれていたのは、ただそれだけ。他にわかることといえば、いつも不嫌機そうな顔をしているということと、優より年上なのに、まるで子供のような外見だということぐらい。最期の時を迎えるのは、自宅か7Fか。いずれの選択肢をも拒み、ふたりは優の父親の車を奪って走り出す。行き先も、未来さえも持たないままに―。人気ゲームクリエイター片岡ともが綴る感動のストーリー、待望の小説化。
原作はフリーソフトのノベルゲーム。話題作、大人気な作品ということは知っていたが、なかなか触れることができなかった。PSPのソフトや本書のようなライトノベル形式にメディアミックスされていることからも、その人気は顕著だろう。
プレイ後の方々の評判を聞くからに、「ただのギャルゲー」で済ますレベルの作品ではないと思い、本書を読むに至る。
長い黒髪と言っておきながら、イメージイラストが黒いと言うほどではないのだが、気にしないでおこう。
ちなみに、原作は未プレイなので、比較してのレビューはできない。
あらすじからわかるように、入院、不治の病系の題材。オーソドックスではあるが、直球で涙腺を刺激してくる作品は、ミステリーばかり読んでいる自分にとって久々に読んでみたい気分であった。
その内容はやはり直球勝負。奇をてらったものではなく、この題材にありがちな王道ストーリー。類書を挙げろ、と言われても頭に浮かぶほど多読家ではないので、比較材料は無いのだが、まぁスタンダードなお話。
だが、それでいて泣けるのがこの手の話のいいところ。「病や死で涙を誘うのは安易だ」と反感を抱くようなチープさも感じず、ライトノベルらしさ漂う読みやすさで、スッと読めてグッと来る。
死を待つ身である彼らの心情はそれほど描かれているわけではないが、行間から深く読み取れる。
静かにただ主人公たちの行く末を見守りながら読み進める。それは
切ないストーリーを感じさせる中で、心地よい川の流れに身を任せるような暖かさを感じた。
また、
彼らの生き様には、こんな自棄っぱちなこともいいじゃない、と思わせてくれるような、社会的束縛から解放されるカタルシスに溢れている。
そして、ラストは……。こんなもんでしょう。
壮大な伏線を張っているわけでもないので。ただ、
病気に関する言及とその病を患っている登場人物の心理描写の薄さがちょっと気になった。何より、ヒロイン側に焦点が当たりすぎていて、主人公側の描写が疎かに感じた。特に、家族絡みの問題はもっと掘り下げて欲しいところだ。
これ系の題材の作品の割には……という感想。
全体の出来として、作者は小説家ではなくゲームのシナリオライターなので、その辺りの専門性の差を感じる人は感じるのかも知れない。そんな小難しく考えて読むものでもないし、読んでいて不快な点も無かったので、自分としては無問題だ。
評価:★★★☆☆
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