タイムマシンについて本気だして考えてみた
商品紹介
オカリンは、アメリカの学術雑誌に論文が載ったという若干18歳の天才少女、牧瀬紅莉栖と出会う。だがオカリンは、その牧瀬紅莉栖が数時間前にラジ館の屋上で殺害されているのを目撃していた。いったいなぜ牧瀬紅莉栖は生きているのだろう――。SERN、ジョン・タイター、幻のレトロPC 『IBN5100』、タイムマシン、バタフライ効果、タイムトラベルにおける11の理論――。いくつもの要因が偶然に重なり合ったとき秋葉原に本拠を置くサークルのメンバーたちに、世界規模の「未来への選択」が委ねられた。
友人、インターネットなどから「面白い」「すばらしい」という評判ばかり聞く本作。タイムトラベルのネタは個人的に大好きな分野なのもあり、手を出すことにした。
一般的に見て、ギャルゲーに属するかもしれないが、
中身は至って大まじめ(?)なSFもの。主人公にヒロインが好意を抱いてくるという点は、まぁお決まりというかもはや暗黙のルールなので仕方ない。
先にも述べたタイムトラベルについての言及は非常に詳らかに調べられており、シナリオにちりばめられている。
序盤にはその科学的、専門的な執拗な説明や講義にげんなりするかもしれないが、徐々に緩和され、サスペンスな展開に吸い込まれることになる。
むしろ、ライターの熱心な取材には、この作品に対する情熱を感じる。萌えキャラ置いときますね、と言うだけのオタク向けゲームじゃないと期待してもいいと思う。
取っ付きで挫折しそうな要素のもうひとつとして、極度なオタクトークがある。2ちゃんねるネタを恥ずかしげもなく使うキャラクターや、重度の厨二病患者。物語の腰を折る頻度での空気の読めない発言がイライラさせる。
オタクトークこそ多いが、これも秋葉原という世界観に合ったものと言えるので、批判すべき点ではないかもしれない。それに、これも序盤を抜けたら緩和される。
とは言っても、やはり
2ちゃんねるなどのインターネット絡みの話やアキバ系の文化を全く知らない人には全体的に厳しい。そこはユーザーを完璧に絞っている。まぁこのゲームを手にとろうとする人はだいたい問題ないとは思うのだが。
特にやっていて「いいなぁ」と思ったのは、BGM。非常に謎めいた雰囲気漂う音楽が、ゲームの世界へ引きずり込んでくれる。盛り上げどころ、緊迫感のあるシーン、真実を知る場面、悲劇的な場面、無音。
当然かも知れないが、すべて効果的に挿入してくるので、非常に心に来る。
小説でなく、ノベルゲームならではの長所だ。
もちろん、キャラクターボイスの声優の演技力もさすが、と言える。グラフィック(キャラクターデザイン)なども好き嫌いはあるかもしれないが、個人的には雰囲気にマッチしていて好きである。
さて、具体的な内容。
ネタバレを避けて書くのはなかなか難しいが、ものすごく大ざっぱに触りだけ言うならば、『偶然にもタイムトラベルのような異常な経験した主人公、彼のサークル内で偶然にもタイムマシンのようなものができてしまう』という導入部で、
全体として『タイムマシンが完成(実在)したらどうなるのか』というものを著者なりに考えてみた、という印象。
非常にチープな印象の説明になったが、
中身は深い。過去改変のリスク問題、改変前の改変者(時間移動者)の記憶の問題、時間そのものの解釈や平行世界などの考え方、過去を変えることで起こる波及効果。そもそも時間を超えるための理論的な話。
様々な話について科学的、哲学的、ときには形而上学にまで発展しそうなほど深く考えさせられる。
その渦中に身を置く主人公達を追っていくのは、とてもスリリングであり、今後の展開もさっぱり読めない。そもそも、今彼らが置かれている状況がどういった『時間』なのか、そういった点でもワクワクが止まらないといった具合。
全体的な雰囲気はミステリアスであり、シリアス。キャラクターやオタク文化な雰囲気こそ柔らかいが、実に堅い内容と言える。
用語解説の数も200を超える。
スラングの解説も多いが、ジャネの法則といった心理学、時間順序保護仮説といった量子力学の分野もあり、考えれば考えるほど頭を抱える難しい話が題材だったりする。
軽い気持ちでやるには、その点で厳しいが、それを斜め読みしたとしても、シナリオや世界観の魅力はあまり衰えないはずだ。
ちなみに、「感動!泣ける!」というよりは「熱い!どうなるんだ!」という感じの作品だった。
この話の
最大の長所は、初めの方から遠慮無く広げられた風呂敷を見事に畳みきるところである。
伏線回収はシナリオとして当たり前のことと言えばそれまでだが、ここまで訳の分からない事象の数々を論理的にまとめあげ、感動的に締めくくる点は絶賛したい。プロット作成の際は、きっと苦労したことであろう。
ノベルゲームと言うこともあって、シナリオ分岐があるのだが、もしこうなったらというルート分岐もなかなか手抜き感はなく、見所があり、わからなかった伏線や各キャラクターの魅力も存分に味わえる。
いろいろと
システム面でのバグなどの不満点などはあるが、読み物としては完璧。初めに述べた挫折ポイントとなりうる欠点も、私自身耐性があるせいか、後半には馴染んでくる始末。
エンディングを見終わった後、キャラクターとの別れが惜しくなるほどの作品は久しぶり。満点です。
ゲームシステム面も携帯電話を活用して進むという近代的な作り。これについては割愛させていただきます。
評価:★★★★★
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