恐怖は恐怖なのだが・・・・・・
内容(「BOOK」データベースより)
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。
『インシテミル』以降ご無沙汰だった米澤穂信氏の作品。
ホラー風味なミステリーの印象を受け、自分の中でのド真ん中ストライクを期待しての購入。
短編集であることを知らないまま、長編気分で購入したので少し残念だった。とは言え、舞台はお嬢様たちが集う読書サークル『バベルの会』を背景とした短編が集まっている。
最後の短編にはおそらくそれに見合う伏線回収があるはずであろうと思いながら、書を開く。
帯にもあるが、各短編、最後の一文を誤って見てしまわないよう注意しよう。最後の一文でやってくれるものばかりだ。
●『身内に不幸がありまして』
BOOKデータベースにもあるように、バベルの会の合宿二日前に起きた陰惨な事件を皮切りに、毎年同日に殺人事件が起こるようになるというありがちな内容。
犯人や犯行トリック云々をいうものではなく、ホラーを楽しむ感じだ。何より
その犯行の動機こそが見所となる、私があまり触れたことのない感触のミステリーだった。
巧い。
●『北の館の罪人』
北の館に住まう者とその小間使いを描く。どろどろした雰囲気はまさにホラーテイスト。読み終えた感想としては
もう一押し欲しい感じがした。
●『山荘秘聞』
「お、これはオチが読めた」と思わせておいて、やはりミスリード。さすがミステリー作家だ。
完全にやられました。
●『玉野五十鈴の誉れ』
なんというしっかりしたストーリー。小さな幸せ、過酷な運命による幸せの崩壊、登場人物の思い。読後感もホラーゆえにゾッとするところはあるが、むしろホッとしてしまった。
個人的に一番吸い込まれた短編。
●『儚い羊たちの晩餐』
ううむ、よくわからない。いや、わかるのだが、オチが読めすぎたというか。しかし、ラストの意味がいまいちわからない。。。ダメだなあ。これだけ溜めてきた『バベルの会』という伏線がこれだけなのか、という思いが強い。
最近流行(?)の独白形式。独特の恐怖感を演出するのに適した表現方法だな、とたびたび思う。独白はホラー向きかもしれない。
お嬢様方の話なのもあり、市井の私には知らない什器や聞き慣れない言葉や言葉遣いも多く、辞書を片手に知識を深めながら読んだ。著者の筆力はさすが著名作家。
このストーリーにそぐう当たり前の文章表現にさえ、感動してしまう。作家志望にはいい教材である。
しかしまぁ、巻末の書評にもあるように、本書は古今東西のミステリーをもじった表現やネタが多いらしく、
そういった裏の設定を楽しむことはもちろん、本文中の文意をくみ取るところでもついていけない部分があった。
そして、個人的には『恐怖は恐怖なのだが、なんだか慣れてしまって・・・・・・』という残念さ。
私が浅学無知なだけかもしれないが、
いまいちオチもしっくり来なかったので、こんな評価。古来生粋のミステリー好きにターゲットを絞っているワケではないと思うが、少し理解できない。
評価:★★☆☆☆